企業・個人で取り組むノロウイルスへの感染予防・対策法とよくある疑問Q&A

ノロウイルスは突然の嘔吐や下痢を引き起こす感染症で、家庭内だけでなく職場でも大きな混乱を招くリスクをもっています。
この記事ではノロウイルスに対して企業や事業所、個人が取り組むべき対策やノロウイルスに関する疑問について、正しい対応と職場における対策や行動のヒントをわかりやすく解説します。
目次
食中毒?感染症? そもそも「ノロウイルス」とは

ノロウイルスは、感染性胃腸炎・食中毒を引き起こすウイルスの一種で、非常に感染力が強い点が特徴です。国立感染症研究所のデータを参照すると主に11月から2月の冬場に流行していますが、感染するのは冬だけとは限らないために年間を通じてしっかりと対策をしたほうが安心です。
ノロウイルスは、食べ物や接触を通じて人から人へと広がります。感染すると数時間から1日程度の潜伏期間ののち、次のような症状が現れます。
・激しい吐き気
・おう吐
・下痢
・腹痛
・発熱
これらの症状は通常1〜2日で収まりますが、体力が低下している高齢者や乳幼児では重症化するケースもあります。
正しい情報をもとに予防を! ノロウイルスが「怖い」と言われる理由
ノロウイルスは小さな球状のウイルスで、ごく少量(10〜100個程度)でも感染します。ウイルスが付着したドアノブや食器、手指などから、あっという間に集団感染が広がる可能性があり、一般的な手指消毒用のアルコールでは不活化しにくいことも「怖い」と言われる理由です。
また感染してから数時間〜1日程度で発症する事例が多く、その症状は突然激しく出るために、本人も周囲も対処に遅れが出やすい面もあります。おう吐物や便に大量のウイルスが含まれ、処理の仕方を誤ると周囲にウイルスが拡散しますので、塩素系漂白剤での消毒が必須とされています。
さらに、意外と知られていませんがインフルエンザのような「特効薬」はなく対症療法しかないために、回復まで自然治癒を待つしかありません。体力が奪われやすく脱水症状にも注意が必要です。
原因や症状を理解しよう!企業・事業所でできるノロウイルス防止に向けた対策

ノロウイルス感染は、企業活動にとっても大きなリスクです。医療現場や福祉施設だけでなく、食品を扱う業種や不特定多数の人が出入りする施設では特に感染拡大を防ぐ体制づくりが不可欠ですし、一般的な会社でも感染者が出ると周りの仕事に影響します。
企業や事業所が取り組むべきノロウイルス対策を4つの視点から紹介します。
【安全かつ適切なルールづくりを!】 従業員の健康管理
ノロウイルス対策の基本は「感染者を出勤させないこと」にあります。ウイルスに感染した従業員が出勤すると、職場での集団感染や顧客への二次感染のリスクが高まってしまうためです。
従業員の子どもが学校で感染し、そこから大人が感染し会社へと広がる事例もありますので、蔓延を防止するためにも下痢・おう吐などの症状がある人は出勤させないよう、ルールを徹底する必要があります。また体調報告制度や体温チェックの導入、症状が治まってからも最低2日間は勤務停止にするなど感染を防止する対策を講じましょう。
【事業所内に案内も掲示を!】 手洗いの徹底
ノロウイルスの感染経路で多いのが「手指を介した経口感染」です。そのため、企業内での「手洗い励行」は最も重要かつ標準的な対策のひとつです。
トイレを使用する際や休憩後、業務の前後には、石けんと流水による30秒以上の手洗いを推奨するのが効果的です。企業や事業所は、ハンドソープや使い捨てペーパータオルを常備しましょう。
また、手洗い手順のポスターを見やすい場所に掲示したり社内ネットワークにおける動画で視覚的に周知する試みも効果的です。
【清潔な環境としっかりとしたマニュアルを!】 施設・調理場の衛生管理
ウイルスは床や壁も含めて目に見えない場所に潜んでいますから、施設内の清掃・消毒は常に重要です。
トイレ・ドアノブ・スイッチなどの高頻度な接触箇所の定期的な消毒は不可欠で、食品を扱う場所では、調理器具やふきんの加熱消毒(85℃で1分以上)や、塩素消毒の実施も行うべきでしょう。床の掃除も、定期的に行うほうが確実です。
ノロウイルスにはアルコールが効きにくいため、次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)を使用して、管理を徹底します。
【正しい情報の周知を!】 従業員教育の実施
従業員一人ひとりがウイルス対策の重要性を理解し、正しい行動が取れるように教育を行うことも取り組みとして不可欠です。
定期的に感染症対策の研修を実施し、正しい知識と行動を共有する取り組みとして嘔吐物の処理方法や消毒手順のマニュアル配布、実地訓練、ノロウイルスを含む基本的な感染症対策への知識(感染経路や潜伏期間、予防方法など)の共有を行っておきましょう。
なおウイルス対策を効果的に行うには、パート・アルバイトを含めた全従業員を対象とする教育体制を整えるのが好ましいでしょう。
うつらない・うつさないために! 従業員が個人でできるノロウイルス対策

ノロウイルスは、ほんの少量でも感染する強力なウイルスです。冬場は特に流行の季節ですが、年間を通して対策を心がけるに越したことはないでしょう。
日常生活におけるちょっとした意識と行動で、感染リスクは大きく減らせます。
個人でできるノロウイルス対策を4つの視点から解説します。
【石けんを常備する!】 こまめな手洗い
ノロウイルス対策における最も基本であり、最も効果的なのが「手洗い」です。石けんと流水による30秒以上の手洗いを実践しましょう。
トイレのあとや調理の前後、食事の前や外出から戻った際などには、必ず手洗いをする習慣が大切です。アルコールを手に揉み込んだだけでは対策になりませんから、物理的に洗い流すことが大切です。
【家庭での料理も注意!】 加熱調理を徹底する
ノロウイルスは熱に弱い性質があるので、牡蠣など感染源になりやすい二枚貝を調理する際には、十分に加熱することも対策につながります。
中心温度が85~90℃で90秒以上の加熱を徹底するとよく、併せて調理器具や食器も洗剤でよく洗い、可能なら熱湯消毒しましょう。
家庭での調理では電子レンジ調理や「ちょっと温めただけ」で済まさずに、きちんと火を通すことが対策につながります。
【ビニール袋も常備を!】 汚物の正しい処理方法を知る
家族がおう吐したり下痢をした場合に、処理方法を間違えると二次感染の原因になります。処理をする時は使い捨て手袋・マスクを使用し、嘔吐物やふん便はペーパーなどで静かに拭き取って飛び散らせないよう注意しましょう。処理をした汚物はビニール袋に入れて、しっかりと袋を結びます。
拭き取った後の床は汚染されているので、塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)で消毒することも大切です。
ウイルスが拡散するリスクを踏まえ、拭き取った雑巾を再利用するのは控えましょう。
【市販の漂白剤も使える!】 正しい消毒方法を理解する
ノロウイルスに対する正しい消毒方法を知っておけば、家庭内感染を防げます。一般的なアルコール消毒では不十分ですから、塩素系漂白剤を使用します。
身近な市販のキッチン用漂白剤(5〜6%)を使用する場合には、500mlのペットボトル1本分の水に漂白剤を5ml(小さじ1杯)入れると約0.1%の消毒液が完成します。
出勤停止?いつまで?…ノロウイルスに関するQ&A

Q1:家族がノロウイルスに感染したら会社を休むべき?
A. 原則として、感染の兆候が自分にない場合は出勤しても構いません。
ただし、ノロウイルスは非常に感染力が強く家庭内感染のリスクが高いために細やかな注意が必要です。自分におう吐・下痢・発熱などの症状が出ていないか毎朝チェックをし、少しでも異変があれば出勤を控えます。
迷った場合には自己判断をせず、上司に相談するのが望ましいでしょう。
Q2:職場にいるときに症状が出たらどうすればいい?
A. すぐに業務を中断し、速やかに退勤しましょう。
ノロウイルスは症状が出ると急激におう吐や下痢が始まるため、そのまま職場にとどまるのは非常にリスキーです。
上司や周囲に体調不良を報告し、職場の人との接触は最小限にして退勤しましょう。
早めに医療機関で診断を受け、ノロウイルスであるかどうかを確認することも大切です。
Q3. ノロウイルスと診断されたら、いつまで仕事を休めばいい?
A. 一般的には、症状が治まった後も「最低2日間」は出勤を控えるのが望ましいとされています。
ノロウイルスは、症状が治まったあとにも1週間程度はウイルスを排出し続ける場合があります。そのため業種や業務内容によって、職場復帰のタイミングにも注意が必要です。
勤務先の感染症に関する就業規則に従ったうえで、医師の意見書や復職許可が必要なケースでは速やかに申請しましょう。
まとめ:ノロウイルス対策には行動の積み重ねが必要

ノロウイルスは、一人ひとりの行動ひとつで周囲に大きな影響を及ぼす感染症です。体調不良を我慢して出勤することが職場全体のリスクになる可能性もありますし、職場内で感染者が発生した際には対応の遅れによって二次感染を拡大させるリスクもあります。
厚生労働省のサイトには、ノロウイルス等に関する最新の情報が掲載されています。定期的にチェックをし、ノロウイルスを含む食中毒に関連する情報をアップデートするよう努めましょう。
効果的な対策を続けるにあたっては、状況に応じた一人ひとりの行動の積み重ねが必要です。企業や事業所などの組織における対策では「無理をしない・隠さない・広げない」を合言葉に、正しく対応していきましょう。