健康診断を受けないとどうなる?休んだら?企業の義務や罰則を解説
会社の健康診断は、労働安全衛生法により定められている企業の義務です。というのも、企業には従業員を健康な状態で働かせるという「安全配慮義務」があるからです。本記事では企業が行う健康診断の基本について解説します。また、「健診を受けないとどうなる?」「健診を休んだらどうなる?」といった従業員からよくある質問についても回答していくので、ぜひ参考にしてください。
目次
健康診断の実施は企業の義務
労働安全衛生法第66条には、「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない」とあります。つまり会社の健康診断は、企業が労働者に対して行うべき義務なのです。
労働安全衛生法は、戦後の高度経済成長期に労働環境の激変などから労働災害が急増したことを受けて、1972年に成立しました。その目的は労働者が安全に働くことができ、健康で快適に過ごせる職場環境を確保することです。労働者の命と健康を守ることは、雇い主である企業の義務であるとはっきりうたわれているわけです。
また、従業員側にも健康診断を受ける責任があります。
健康診断を実施しないと罰則がある
会社が健康診断を行うのは法律で定められた義務ですから、実施しなければ罰則があるのは当然のことです。
労働安全衛生法第120条には、会社が健康診断を実施しなかった場合、金50万円以下の罰金の対象になると書かれています。
また、同じく第120条では健康診断結果の取り扱いについても触れており、結果を従業員に通知しなかった場合、及び結果を適切に記録しなかった場合には金50万円以下の罰金の対象になるとしています。
さらに同法第119条では会社が健康診断に関する秘密を漏洩した場合、6ヶ月以下の懲役または金50万円以下の罰金の対象になるとしており、健康診断の実施からその結果の取り扱いに至るまで厳しく規定されているのです。
こうした刑事上の罰則に加え、民事上の責任を負う可能性もあるので注意が必要です。例えば、健康診断を受診していない従業員が業務上の理由で健康を害した場合には、会社側の安全配慮義務違反となり損害賠償責任が発生する可能性があります。
従業員に受診を拒否された場合
労働安全衛生法第66条6項には「労働者は、事業者が行なう健康診断を受けなければならない」とあります。つまり会社の健康診断は労働者にとっても受ける義務があるわけです。とはいえ、特に罰則は設けられておらず、会社側が強制することはできません。会社には受けさせる義務があり、従業員は受けなくとも罰則はない、というある種困った状態です。
もしも従業員に受診を拒否された場合には、まずその理由を正確に把握しましょう。受診が難しい事情があるのか、あるいは健康診断に対する誤解や恐怖があるのか、本人から話を聞くことが大切です。そのうえで、健康診断の重要性を再度説明しましょう。健康診断は従業員自身の健康管理に役立つだけでなく、法令に基づく企業の義務でもあることを理解してもらうのです。受診を拒否することが法令違反につながる可能性や、それが職場全体の健康管理に与える影響についても説明しましょう。
それでも受診を拒否するのであれば、企業としては労働安全衛生法に基づき指導や助言を行って受診を促すべきです。法律上は強制できませんが、就業規則で健康診断の受診を義務付け、受診を拒否した場合の処分を明記しておくことは可能です。それによって健康診断の拒否を防ぐことができるでしょう。
健康診断の目的
そもそも会社の健康診断の主な目的は次のとおりです。改めて何の目的で健康診断を受けるのかを知ることで、健康診断受診の促進につながるでしょう。
病気の早期発見・早期治療
健康診断は、病気や健康問題を早期に発見し、早期に治療を始めることができるようにするための重要なツールです。これにより、重大な健康問題が発生するリスクを軽減することができます。
健康状態の把握
健康診断は、社員自身が自分の健康状態をより良く理解するための機会を提供します。これにより、社員は自分自身の健康を管理し、適切なライフスタイルの選択を行うことができます。
健康的な職場環境の維持
健康診断は、社員の健康を維持し、生産性を高め、組織全体のパフォーマンスを改善するための重要な要素です。健康な社員は、より効率的に働くことができ、組織全体の生産性に対してプラスの影響を与えます。
法律遵守
多くの国や地域では、労働者の健康と安全を保護するために、定期的な健康診断が法律で義務付けられています。従って、会社が健康診断を実施することは、法律を遵守するための重要なステップでもあります。
以上の点を総合すると、会社の健康診断の目的は、社員の健康を維持・向上させ、生産性を高め、法的要件を満たすことにあります。
健康診断を受けないとどうなる?
「健康診断を受けないとどうなる?」は、従業員が抱くよくある疑問です。
健康診断を受けないと、様々なリスクがあります。まず、病気の発見が遅れることによって知らぬ間に進行してしまい、気づいたときには手遅れになる恐れがあります。まだ症状としては現れていない段階の潜在的なリスクを早期に発見し、早期治療に結び付けることは、健康診断の大きな目的の一つです。
また、健康診断には自分の健康状態を把握する、という目的もあります。自身の健康状態を把握できていないと、ライフスタイルの選択や健康管理が困難になることもあるので、定期的な健康診断は欠かせません。
さらに、一定の企業には労働安全衛生法によって従業員に対する健康診断の実施が義務付けられています。従業員が受診を拒否すると、企業が法令違反となり罰則を受ける可能性があるのです。
このように、健康診断は個人の健康管理のみならず、企業の法令遵守の観点からも非常に大事なものであると言えます。
健康診断の日に休んだらどうなる?
「健康診断の日に休んだらどうなる?」も、従業員が抱くよくある疑問です。
健康診断の日に休んだ場合の対応は企業によって異なりますが、一般的には次のような対応になることが多いです。まず、企業が健康診断の日に欠席した従業員に対し、健康診断を受ける機会を再度設けるというケースです。あるいは地域の他の医療機関で健康診断を受けるよう促すこともあります。もしくは、次回の定期検診まで待つこともあります。
従業員が健康診断の日に欠席したのをそのままにしておくことはできません。企業には、労働安全衛生法に基づきすべての従業員に健康診断の機会を提供する義務があるからです。健康診断は従業員の健康状態を把握し、病気の早期発見や予防を行うために重要なものです。
健康診断の日に休んだ従業員は後日受診するよう努め、また企業側も従業員が健康診断を受ける機会を確保するなど、双方に努力が求められます。
健康診断の対象者
企業に勤める正規の従業員は、全員健康診断の対象者となります。その他、役員やアルバイト・パート従業員については以下で詳しく解説します。
役員は対象?
役員も正規従業員といえますので、そういった意味では対象になると考えられがちですが、すべての役員が対象になるわけではありません。労働者としての性質もあるかどうか、すなわち「労働者性」の有無で分けられます。例えば、常務取締役であっても工場長を兼務している場合は労働者性があるため対象になりますが、代表取締役社長の場合は事業主であって労働者性はないため対象外となります。
法律上はこのような取り決めになっていますが、もちろん事業者側の役員も健康であることは職務上重要です。法的な義務がないからといって、必ずしも健康診断を受けなくてよい、ということにはなりません。
従業員の家族・配偶者は対象?
従業員の配偶者や家族は、健康診断の対象ではありません。
企業が健康配慮義務を持つのはあくまで従業員本人だけであって、その家族にまで企業の責任は及ばないからです。従って、企業には従業員の家族に健康診断を受けさせる義務はありません。
アルバイト・パートは対象?
アルバイト・パート従業員に関しては、労働時間によって異なります。労働時間が正規従業員の4分の3以上となっている場合は、アルバイトやパートであっても健康診断の対象になりますが、4分の3を下回っている場合は対象外です。
また、派遣会社から来ている派遣社員については、健康診断の対象とはなりません。企業が健康診断を受けさせる義務を持つのは、あくまで自社と直接雇用契約を結んでいる従業員のみです。
健康診断の種類
会社の健康診断には、大きく分けて2つの種類があります。それぞれどういったものなのか、以下で解説します。
一般健康診断
一般健康診断は、年1回の実施が義務付けられているものです。職種・仕事内容や勤務時間(夜勤など)に関わらず、健康診断の対象となっている人全員が受けることになります。
新しく採用した従業員に対し、入社時に行う健康診断もこれに含まれています。
特殊健康診断
法令で定められた「有害とされる業務」に従事している従業員に対して行われる健康診断です。
有害とされる業務の中には放射線業務や特定化学物質業務、石綿や鉛を扱う業務などが含まれます。
健康診断の検査項目
2種類の健康診断ではそれぞれどのような検査項目があるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
一般健康診断・定期健康診断の項目
一般健康診断・定期健康診断で行われる診断は、大きく分けて11項目です。
まずは既往歴や業務歴等の調査、続いて自覚症状や他覚症状があるかどうかの検査をし、身長・体重・腹囲の計測と視力・聴力の検査を行います。胸部エックス線検査や血圧測定、心電図検査も実施します。貧血検査・肝機能検査・血中脂質検査及び血糖検査は採血をして血液を調べ、尿検査は尿を採取して調べるものです。これらの検査によって、総合的に健康状態を診断します。
特殊健康診断の項目
特殊健康診断は、事業所によってその検査内容が異なります。
例えば有機溶剤を使用している事業所の場合は、まず業務経歴を調査します。続いて、有機溶剤を使う業務によって健康に影響がある(または過去にあった)かどうかの調査です。過去の既往歴や現在の自覚症状・他覚症状の有無を調べるとともに、尿に含まれる有機溶剤の代謝物の量や、たんぱくの有無を検査します。また、肝機能検査や貧血検査、眼底検査も行います。
特殊健康診断は従業員の職種に合わせて行うことが必要です。実施しなかった場合、労働基準監督署から厳しい指導を受けることもあるので注意しましょう。
健康診断の企業負担費用
健康診断の費用は企業が負担することになります。その相場はどれくらいなのか、また福利厚生費として計上するにはどのような条件があるのかについて解説していきます。
健康診断費用の相場
健康診断は、医療保険が適用されない自由診療です。そのため、医療機関によって設定されている金額は異なります。相場としては従業員一人につき概ね10,000円~15,000円となっていることが多いようですが、従業員数や健康診断のやり方によっても違ってきます。
例えば健康診断用の特殊車両に来てもらってそこで健康診断を行う場合と、決められた場所に従業員が各々都合の良い時間に赴いて受けるのとでは費用は異なります。事前に必ず確認しておきましょう。なお、従業員が個人で希望してオプションの検診を受ける場合、オプション部分の費用に関してはその従業員の自己負担となることが多いです。
健康診断の費用を福利厚生費にするには
従業員に対する福利厚生の一環として健康診断を行う、という企業も多いでしょう。ただし、実際にかかった費用を福利厚生費として計上するためにはいくつか注意点があります。
まず第一に、すべての従業員が健康診断を受けられる体制を整えていることが必要です。次に健康診断が従業員の健康管理を目的としており、常識的な予算内で実施されていること、そして担当した医療機関に対して企業が直接費用を支払っていること、このすべてを満たすのが条件となります。
役員だけがより精密な検査を受ける場合や、一般的な相場からするとあまりにも費用をかけすぎているケースは認められません。また特に重要なのが費用の支払い方法です。あくまで企業から医療機関に直接支払うという形が必要で、従業員にいったん立て替えさせて後で支給する場合は、福利厚生費としては処理できません。この場合は給与として計上しなければならないので注意が必要です。
従業員からよくある質問
健康診断にあたって、従業員から様々な質問が出る場合があります。ここでは代表的な3つの質問について回答します。
妊娠中のため受けたくない場合は?
妊娠中であっても従業員であれば健康診断の対象になりますので、受診する必要があります。
ただし、主治医に相談して「受診不可」と言われた場合は受けなくて構いませんが、会社側にその旨を報告しなくてはなりません。また、受診する際は胸部エックス線検査等一部の検査が受けられないことがあるので、医療機関に妊娠中であることを伝える必要があります。
業務の都合で受けられない場合は?
業務の忙しい部署や繁忙期に当たった場合など、健康診断を受けに行く時間を捻出することが難しい従業員もいるでしょう。それを理由に受けようとしない人も出るかもしれませんが、ここで勘違いしてはならないのは会社の健康診断は単なる福利厚生ではない、ということです。
福利厚生だと思い込んでいる従業員もいるかもしれませんが、実は従業員の側にも受ける義務があるのです。企業側はそのことをきちんと従業員に説明し、納得してもらわなくてはなりません。
とはいえ、それだけでは問題が解決しないこともあるでしょう。企業側としても、受診可能な日を複数用意して都合の良い日を選べるようにするなど、従業員が仕事の合間に健康診断を受けられるようにするための工夫が必要です。
仕事が忙しいなら時間外に、ということではなく、あくまで勤務時間内に行けるようにすること、また会場が社外である場合は交通費を支給するといった配慮も重要です。
こうすることで、企業が受診を促進しているという姿勢を従業員に見せることができます。
再検査の費用は会社負担?
健康診断で何らかの異常が見つかり再検査となった場合、その費用は原則として個人負担となります。ただし、特殊健康診断の再検査や精密検査に関しては会社負担となります。また、リスク管理の観点から早急に専門医を受診すべきとされた一般健康診断の再検査も会社負担です。
再検査については会社側に受診勧奨の努力義務があるものの、従業員側には受診義務がないため、場合によっては検査を受けない人も出てきます。その結果、体調が悪化することがあれば会社が責任を問われることもあるので、会社が費用を負担することで検査を受けるよう働きかけることが必要になるわけです。
なお、一定の条件を満たした場合は「労災保険二次健康診断等給付」に該当し、再検査費用が無料になったり、従業員は年1回までの無料診断が認められることもあります。
健康診断当日の服装は?
女性の場合、上下セパレートが基本です。上半身だけ下着になる検査もあるので、ワンピースのようにつながっているものは避けましょう。上半身はTシャツやカットソー、下半身は足元を出しやすいスカートなどが良いです。
また、心電図では足首に電極をつけるので、ストッキングではなく靴下を着用し、靴はスニーカーやパンプスなどの着脱しやすいものがおすすめです。胸部エックス線検査では下着が問題になりますが、金具を使用していない下着の方が対応がしやすいでしょう。
男性の場合は、インナーに白Tシャツを着ておくととてもスムーズです。ズボンのベルトは外しやすいものにするか、ウエストゴム仕様のパンツが良いでしょう。ネクタイや時計はあらかじめ外し、ジャケットはない方が良いです。靴も着脱しやすいものを履きましょう。
健康診断実施後の注意点
健康診断を実施した後、企業として注意すべき点は何でしょうか。ここでは企業が果たすべき2つの義務について説明します。
健康診断結果の保管義務
従業員の検査結果の個人票が作成されたら、企業はそれを5年間適切に保管する義務があります。
また、保管に当たっては従業員本人に承諾をもらうことも必要です。その都度了解を取るのは大変ですから、健康診断を受診することとその結果を会社が保管することに関して、あらかじめ就業規則に盛り込んでおくと良いでしょう。
健康診断結果の報告義務
50人以上の従業員を常時雇用している企業に対しては、健康診断結果を所轄の労働基準監督署へ報告する義務が課されています。この「50人」にはパート・アルバイト従業員も含まれていますが、先に説明した通りパートやアルバイトで健康診断を受けるべきとされているのは「労働時間が正規従業員の4分の3を超えている人」だけです。
従って、常時雇用している従業員は50人以上いるが、そのうち健康診断を受けるのは50人未満(短時間労働者など対象外となる人もいる)、ということも当然起こり得ます。報告義務があるかどうかの基準となるのはあくまで「常時雇用している従業員の人数」なので、この場合は報告義務が発生します。
従業員の元気は企業にとっても大きなメリット・健康診断を通して健康維持に努めよう
会社の健康診断は、企業と従業員双方にとっての義務であると同時に、健康を維持するために大切なものです。ぜひ受けるようにしましょう。
また、普段から病気にならない体づくりには、真(シン)健康経営サポート「オフけん(オフィスに健康を)」を利用するのも良いでしょう。健康セミナーや「出前からだ測定会」、禁煙サポートなどを通して自身の健康に目を向ける良い機会となります。企業にとっても、従業員が健康であることは生産性の向上にもつながる大きなメリットです。
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